『紙の動物園』を読んだ

昨年文庫化され、ピースの又吉絶賛とかで話題になっていたケン・リュウの傑作短編集の1。昨年買ってしばらく積んであったのを読んだ。

 

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

 

 

この文庫本のタイトルにもなっている短編『紙の動物園』が一番最初に収められているんだけれど、これにもういきなりやられてしまった。電車の中で読んでいたからこらえたけど、これ家で一人で読んでたら確実に泣いてた。短編でこれほど心を揺さぶられたのは、レイモンド・カーヴァーの『ささやかだけれど、役に立つこと』を読んだとき以来じゃないだろうか(って、この『ささやかだけれど、役に立つこと』、ストーリーは覚えてるんだけど作者の名前とタイトルが全然出てこなくて、ロバート・アルトマンの『ショート・カッツ』のエピソードとして使われてたやつってとこから検索かけてやっと思い出しましたよ)。まあ私あんまり短編読まないので母数が少ないんですけどね。読み終わったあとしばらく打ちのめされて次の作品に進めなかったくらい。ヒューゴー賞ネビュラ賞の他に、世界幻想文学大賞も受賞して史上初の3冠に輝いたそうだけれど、それも納得である。

 

作者のケン・リュウ自身は中国生まれで、幼少期に家族とともにアメリカ合衆国に渡り、以来アメリカで暮らしているらしい。アジアで生まれアメリカで育ったというバックグラウンドが作品に大きな影響を与えていることは、『月へ』『結縄』『太平洋横断海底トンネル小史』『心智五行』『文字占い師』などの他の短編にも見て取れる。

 

個人的には生物学的な知見を下敷きにした『結縄』と『心智五行』が好き。『太平洋横断海底トンネル小史』はちょっとフィリップ・K・ディックっぽいなと思いながら読み、『愛のアルゴリズム』ではテッド・チャンの『あなたの人生の物語』を思い出した。

 

しかし考えてみると最近私、こういう心を揺り動かされる系の本や映画に全く触れていませんでしたね。こういうの困るんですよ、のちのち思い出してぼんやり浸ってしまって仕事に差し支えるので・・・。学生の頃は今のマーベルのアベンジャーズシリーズみたいな、あまり考えずに観られてすかっとするエンターテイメントを割とバカにしてたんですけどね、こういうのいいんですよ仕事してる身には。観てる2時間面白くて逃避できて翌日の仕事に響かない。世の中の大人がこういう映画を好む理由がわかりますよね・・・。東野圭吾とか売れてるミステリもそういうとこある。ミステリなので最後にすべてがわかるカタルシスが感じられて読んでいる間は現実逃避できて、で、翌日の仕事に響かない。森博嗣のミステリもそういうところあるよな・・・。

 

とりあえず次は『もののあはれ』(傑作短編集の2)ですかね。