『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』を読んだ

先週、Amazonから届いて、帰りの電車で読みだしたら止まらなくなり、寝る前の時間を利用してその日のうちに読み終わってしまった。

 

フタバスズキリュウ もうひとつの物語

フタバスズキリュウ もうひとつの物語

 

 

これは自慢なのだけれど、著者の佐藤たまきさん(たまちゃんと呼んでいるのでここでもそう呼ぶ)は私の友人である。大学の教養課程で同じクラスで、本好きという共通点があって仲良くなった。これは高校生のときも同じパターンだったのだが、大体クラスの女子は流行に敏感なグループとそうでないグループに別れるものである。私が大学に入った頃はまだバブルの頃?だったので、「流行に敏感」グループには肩パッド入の派手なスーツとか前髪だけ巻いた長髪ストレートの子とかたくさんいたなあ・・・。そして私とたまちゃんが「そうでない」グループだったのは言うまでもなく、おしゃれに全く興味がなくはないもののそれより本の話をするほうが好きで、本文p19にもあるように、

 

そして私の文学少女っぷりは駒場時代に頂点に達し、気に入った作家の作品を読み尽くしたり、長編小説を何日もかけて読破したり、友人と本を紹介し合ったり、読み終える競争をしたり、図書館の本棚でマイナーな作家の隠れた名作を発掘したりすることにも勤しむ日々であった。

 

てなことをやっていた。トルストイとかドストエフスキーとかロマン・ロランを一緒に読んだの、覚えてるなあ。さすがに『失われた時を求めて』には手が出なかったけど(彼女はもしかしたら読んでいるかも)、『魅せられたる魂』を読み終える競争をしたのは覚えている。毎日内容の感想とともに「私はここまで読んだ」「私は何巻まで進んだ」という報告をしあっていたのだが、彼女はとても負けん気が強くて、私がちょっと進んでいると翌日には遅れを取り戻してきてさらにまたがんがん引き離していくのだった。それで私は「これは競争してもかなわない」と途中で諦め、気持ち的に戦線離脱したのだったな・・・。

 

学部に進んでからは接点は減ったけれど、研究者を目指す人間同士ということでつながりは残っていて、ついこの前私が東京出張した際には数年ぶりに会って、そこでこの本の出版の話を聞き、帰ってすぐにAmazonで予約注文していたという次第。

 

で、本書。会ったときは内容についての細かい話はしなかったので、フタバスズキリュウの発見や種同定までの過程をまとめた本なのかな?と思ったら全く違った。たまちゃんが生まれてから成長して古生物学者になって、フタバスズキリュウの種同定をするまでの物語、いわばたまちゃんの半生記だった。そしてこれがめちゃくちゃ面白かった。正直、予想をはるかに超える面白さだった。だって、研究者の半生記ですよ?もちろん留学したり発掘調査でいろんなところに行ったりということはあるけれど、インディ・ジョーンズみたいな大冒険があるわけじゃないし、そうそうドラマチックな展開があるわけでもない、一研究者の物語。幼少の頃から恐竜が好きで、大学に入って古生物学を始めて首長竜に会って、留学したり卒業してポスドクを探しながら、首長竜の専門家になって、で、苦労してフタバスズキリュウの種同定をして発表するまでの物語。でもこれが本当に面白くて、最初にも書いた通り、仕事帰りの電車で読み始めたら止まらなくなって、家に帰ってご飯を食べたあともお風呂の中でも読み進めて、結局その日のうちに読み終わってしまった。やっぱりひとつの道を極めた人の話って、面白いんだな・・・。

 

そして面白いと同時に、私にとっては我が身を振り返って少々自分自身にがっかりしてしまう本でもあった。なにしろたまちゃんはまっすぐなのだ。子どもの頃から恐竜が好きで、それで古生物学を学んで、私がへらへらサークルで遊んでいた教養課程の頃から彼女は「生きている化石研究会」に入ってしっかり勉強して、古生物学の研究者になるという目標を目指して大学院から留学して一つひとつ積み重ねていって、そうして地道に努力していた結果がフタバスズキリュウでありムカワリュウなのだ。研究者として一つひとつ積み上げて行く彼女の半生記は、顕微鏡を覗いてきれいなものが見えれば幸せで、研究は大好きだけれど確たる目標があるわけでもなく、ちょっと気が緩むとすぐ怠けるへぼ研究者の私にはすごくすごく眩しかった。

 

同時に、こうやって一つひとつ努力を積み重ねていくまっすぐなたまちゃんが、フタバスズキリュウやムカワリュウの発見という形で有名になり、また猿橋賞受賞という形で正当に評価されているというのは、とても喜ばしいことだなあと思うし、それは多くの研究者がそう感じることだろう。

 

あと、随所に出てくるたまちゃんのかわいいところとか(ご両親に留学に反対されて泣きわめいて抗議するところとか留学してすぐホームシックになるところとか)、種同定過程の学術的な手続きの興味深さとか、表紙や内装の絵の素敵さとか、本書のよいところはいろいろあるのだが、それも含めて読後とても感慨深くなってしまう本であった。皆さん買って読んでください。プリーズ。