『ムカシ✕ムカシ』『サイタ✕サイタ』『ダマシ✕ダマシ』を読んだ

お盆休み中に図書館で借りた『ムカシ✕ムカシ』『サイタ✕サイタ』を読んだら、続きが気になって我慢できなくなり、最新作にしてXシリーズ最終作の『ダマシ✕ダマシ』(出版は昨年なのだが、近所の図書館にはまだ入っていないらしかったので借りられなかったのだ)はKindleで買って読んだ。

 

ムカシ×ムカシ REMINISCENCE (講談社文庫)

ムカシ×ムカシ REMINISCENCE (講談社文庫)

 
サイタ×サイタ EXPLOSIVE (講談社文庫)

サイタ×サイタ EXPLOSIVE (講談社文庫)

 
ダマシ×ダマシ (講談社ノベルス)

ダマシ×ダマシ (講談社ノベルス)

 

 

読み終わってもう一週間だけれど、未だに思い出すと「よかったな・・・」と少々ぼうっとしてしまう。それくらい、じんわり心に残るシリーズだった。これまでのS&MシリーズもVシリーズも四季シリーズも、読み終わったときの満足感はもちろんあったのだけれど、こんなに嬉しいような寂しいようなずっと浸っていたいような気分になったのはこのXシリーズが初めてだ。前回、Xシリーズ最初の三作を読んだときの感想に「森博嗣のミステリは、あまりにつるつる読んでしまうのでなんだかコストパフォーマンスが悪いような気がしてしまう」と書いたように、これまでの私の森博嗣作品に対する印象は「楽しく読めてあまり後に残らない」だったのだが、このXシリーズでその印象ががらりと変わってしまった。

 

norikoinada.hatenadiary.jp

  

前回の感想にも書いたけれど、このXシリーズにはいわゆる「名探偵」役の登場人物がいない。理論的にいろんな可能性を探って仮説を立てていく真鍋はその役に近いけれど、いずれの話も最終的にはなんとなくなし崩し的に謎が解決していく感じ。S&Mシリーズ、Vシリーズでは、名探偵役の犀川先生にせよ紅子にせよある意味超人的な天才で、二人とも感情の揺れや生活の悩みなどというものとは無縁のようで、それゆえ読者は登場人物に感情移入することがなく、読んでいて感情を揺さぶられることもない。つまり「つるつる読めてしまって後に残らない」。

 

一方このXシリーズの登場人物は、小川令子にしろ真鍋瞬市にしろ真鍋のガールフレンドの永田にしろ、みんな特にこれと言った人生の目的もなく、若い人たちは自分の可能性を信じつつも特に何かに向かった努力をするわけでもなく、新しいことを始めてもなんとなく自分には違うかなとすぐ止めてしまったりする、いわゆる普通の人たち。傍から見ていると少々もどかしいくらいだけれど、犀川先生や萌絵とは違う、身近にいそうな人たちだ。

 

そして普通の人たちにはそれぞれ悩みや不安や事情がある。メインキャラクターの小川令子は、過去に大事な人を亡くしてその喪失感から未だに立ち直れていないことがシリーズを通して徐々に明らかになる。このXシリーズがその小川令子の再生の物語であるというのは、冬木さんのブログにも書かれていた通り。

 

 

冬木さんのレビューはこちら。

huyukiitoichi.hatenadiary.jp

 

そしてそういう身近にいそうな人たちの日常の物語を6作のシリーズを通して読むことによって、また日々の付き合いの中でその人の過去やいろんな面を徐々に知っていくように、小川の過去を徐々に知っていくことによって、シリーズの最後では読者はまるで小川や真鍋たちと親しい友人になったかのような気分になる。そしていわゆる一般的なハッピーエンドではないかもしれないけれど全ての登場人物たちがそれぞれ納得できる落とし所を見つけるエンディングに、喜びと寂しさと感じるのだろう。

 

しかし最後の最後に出てくる仕掛けには驚いた。これはもう森博嗣作品、全作揃えて買うしかないですよね・・・。