『メディア・バイアス』を読んだ

毎日新聞記者で、食の安全などに関する著作があるフリーランス科学ジャーナリスト松永和紀さんの2007年の著作。

 

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)

 

 

タイトルの「メディア・バイアス」とは、「多種多様な情報の中から自分たちにとって都合の良いもの、白か黒か簡単に決めつけられるようなものだけを選び出し、報道」する、「メディアによる情報の取捨選択」(p6)の歪みのことだそうだ。「メディア・バイアス」で問題になった例として私が思いつくのは、本書でも取り上げられている「発掘!あるある大辞典II」の納豆ダイエット。確か、番組内で紹介されていた科学的なデータが捏造だったことがバレて、結局番組終了に追い込まれたんじゃなかったかな・・・。

 

www.excite.co.jp

 

「あるある」のようにデータ捏造や、不正確な報道が問題になった健康番組の例、自然派志向の人たちが陥りやすい有機農法への妄信的な信頼や添加物への反発、昔はよかったという懐古主義、そしてマイナスイオンや「水からの伝言」のようなニセ科学まで、メディアの報道がきっかけとなって広まった嘘について、さまざまな方向から分析して検証しているのがこの本。

 

この本を読んで思ったのは、著者の松永さんという方は、すごく真面目で謙虚で自制心の強い方なんだなーということ。新聞記者だった頃は「今から思えば反省するしかない記事を書いたことがある」(p7)と反省なさっているけれど、その反省があるからこそのこの謙虚さなのかな。いやもともとの性格かな・・・。自制心の強さは、ジャーナリストとして中立であらねばという使命感から来ているのであろうな。

 

第4章「警鐘報道をしたがる人々」に詳しく書かれているように、「「危なくない」を伝えるためには、さまざまな角度から微細に検討し、「大丈夫」「大丈夫」と証拠を積み上げて」(p92)いかねばならない。 しかし、そうやって証拠を積み上げていくためには、いろんな論文を読んだり専門書を読んだり、また専門家に取材をしに出張なんかも必要になってくる。フリーランスのジャーナリストだと、「交通費を出版社が出してくれれば御の字。論文や専門書の購入費までは面倒みてくれません。結局、まともに情報収集すると、原稿料はほとんど残らない、という事態になります」(p240)「フリーのライターになって数年は収入があっても取材経費を引けばほとんど残らない、いえ赤字になってしまう」という状況だそうな。大変・・・。

 

一方、報道に携わる会社員なら、「科学的根拠がある「危なくない」記事よりも、世間を驚かす「危ない」記事を書いたほうが、社内的な評価ははるかに高い」(p91)し、またフリーランスなら一企業の広報だけに取材して、企業べったりの記事を書いても、原稿料は同じなのだから、まあそりゃ適当な記事が多くなるよね・・・。

 

この本で取り上げられているメディア・バイアスやマスメディアの中の人々の不勉強さは、私のツイッタータイムラインでも頻繁に話題になっている。もちろん中にはしっかり勉強して取材して科学者にも信頼されるような記事を書いてらっしゃるような方もいらっしゃる(STAP騒動の話を本にした毎日新聞記者の須田桃子さんとか)けれど、そうでない人、偏向的な記事が圧倒的に多いのも現状。

 

そんなマスメディアの現状は変えられないのか?偏向的な報道を止めるにはどうしたらいいのか?という質問に対して松永さんは、「恥ずかしいことですが、マスメディア自身に改善能力はないかもしれません。」(p4)と、かなり悲観的な見解を述べられている。そのような状況を踏まえた上で、情報の受け取り手が自分で分析して判断することが重要だと読者に呼びかけている。

 

ただ、昨年の「ガッテン!」の例なんかを見ると、マスメディアも少しずつだが改善されているのかなとも思ったり。詳しいことは下の記事に書いてあるけれど、「ガッテン!」で放送された内容が危険だとして話題になり、直後に関連学会から異議が申し立てられ、翌週の番組最初でアナウンサーによる謝罪がなされたのは結構はっきり覚えてる。

 

www.zakzak.co.jp

 

まあ、健康にすぐに害が出るわけではない「酵素飲料」なんかは、未だに自然派を辞任する健康マニアの方には支持されているようで、昨日もラジオで宣伝されているのを聞いたし、マスメディアが改善されているというより、科学者たちが声を上げるようになってマスメディアが対応せざるを得なくなったというのが正解、という見方もあるな・・・。

 

わかりやすく柔らかい言葉遣いの文章からも、多くの人々に伝えなければ、という使命感を感じる。松永さんのツイッター、フォローさせていただきました。

 

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