『[図説]偽科学・珍学説読本』を読んだ
昨年買い込んだ疑似科学関連書籍の中で、かなり色物感の強いこの本。
これまで読んできた疑似科学に関する本は、いずれも、現代の疑似科学に対する注意を喚起するのが目的の、学術的な意味合いが強い本だったのだけれど、一方これは現在の知見からすると明らかにおかしい過去の「珍学説」を集めた軽い読み物。「地球平面説」や「優生学」、「錬金術」や、シャーロック・ホームズでも出てきた「骨相学」、イギリスのヴィクトリア朝で子どもの起源を治すためにアヘンやコカインなどの麻薬が使われていたという話などが、さまざまなエピソードを含めて紹介されていて、いくつかはそのトンデモっぷりに「まじか・・・」と苦笑しつつ読んだ。
なかでも、「そんなことある???」と驚いたのが、第6章と第12章。第6章は、「精力回復」を謳い文句に、サルの睾丸スライスを人間の陰嚢に移植したセルジ・ヴォロノフ(1866-1951)の話。当然のことながら、このような移植は効果がないばかりか、移植された人たちが死に始めた時点でこのような施術はおかしいということになったらしいが、おかしいとわかるまでにヨーロッパやアメリカで、ずいぶんたくさんの人が施術を受けたらしい。が、驚いたのはそのあとで、このヴォロノフによる移植実験が、サルに感染するSIVからHIVへの進化を促した、という説があるらしいのだ。
さらに第12章では、ヒトとチンパンジー、オランウータンとゴリラを異種交配させようとしたスターリンお抱えの生物学者、イリヤ・イワノビッチ・イワノフ(1870-1932)の話が紹介されている。チンパンジーの精液をヒトに注入するというような恐ろしい実験を行っていたらしいのだが、これもまたHIVの進化を促した可能性がある、と書いてある。
ほんとかいな・・・と思ってちょっと調べてみたところ、イワノフの話についてはそれに言及した学術的な論文や本は見当たらなかったのだが、ヴォロノフの施術がHIVの進化を促したという説は現在では否定されているという記述が見つかった。さまざまなSIVのDNA配列データを用いた系統樹解析によって、HIVはチンパンジーに感染するSIVから進化したということがわかっているらしい。また、SIVからHIVに進化したのはアフリカだということもわかっているそうで、これらのデータは、施術にサルの睾丸を使い、またヨーロッパとアメリカで活躍したヴォロノフのHIV進化への関与を否定するものだ。
HIVの進化についてはこんな本も出てた。
調べたところどうやらうちの大学の図書館にもあるらしいので、今度借りて読んでみようかな。
一方イワノフが上述の実験を行ったのはアフリカのギニア、かつチンパンジーを使ったという点ではHIVの誕生との整合性は取れているのだが、どうなんでしょうね。ちょっとググってみたけれどそれっぽい学術論文は見つからず。本書でも、イワノフの実験についてはほとんど情報が残っていないようなことが書いてあるので、議論できるほどのデータがないというのが実際のところかもしれない。
それから私、サブリミナル効果については疑いを持っていなかったのだが、本書によるとあれは実際には効果がないことが確認されているそうで。ホメオパシーの起源についても書かれていて、なかなか興味深い本でした。