『人生は、楽しんだ者が勝ちだ』を読んだ

日本経済新聞に連載されていた「私の履歴書」に、大幅加筆修正された米沢先生の自伝。

 

 

めちゃくちゃ面白くて一気に読んでしまった。いや米沢先生、ほんとすごい方ですね・・・。お母様から受け継いだ数学の才能に加え、目標に向かって邁進するエネルギー、そして負けん気と行動力。まさにスーパーウーマンで、読んでいてくらくらした・・・。

 

例えば第四章「出世作」最初のエピソード。修士課程で結婚されてその一年半後、証券会社勤務のご主人が、ロンドン大学の大学院に一年間留学なさるのだが、米沢先生は「私も絶対に、イギリスに行く」「誰が一年も待てるか!」(p110)と、イギリスの大学すべての学長宛に「貴校の大学院で物理を勉強したいので、奨学金をいただけませんか」と手紙を書く。二校からOKの返事をもらい、最終的にキール大学というところに留学。留学中は夜中の二時、三時まで図書館で論文を読み、一年の間に受け入れ先の教授との共同研究で二報、加えて独自のテーマで一報、計三報の論文を発表。勉強だけでなく、二週間に一度はロンドンに出て旦那さんと観光を楽しみ、休暇中もヨーロッパ全土を旅行して回る・・・。ここを読んだだけでも、凡人で、かつ昨今体力の衰えが著しい私は、ぐったりしてしまうくらいのエネルギーだ。

 

その後も活躍めざましく、学位取得後は教育大での学振研究員を経て、京大基礎物理学研究所助手、助教授、そして慶応教授として理論物理学の第一線で研究を進められ、その間に三人ものお子さんを生み育てていらっしゃる。米沢先生の旦那さまは、当時としては珍しいほど奥さんの仕事に理解があり、かつ米沢先生の活躍を周りの人にも自慢するくらい応援なさっていた様子だけれど、それでも当時は「イクメン」なんて言葉もなくて、家事は女性がやるのが当たり前の時代。米沢先生ご自身も「私は「家事分担」を巡る争いはしないと決めていた。争う時間と精神的エネルギーが惜しい(p123)」と、一日四時間睡眠で家事育児をすべてこなされたそうな。まあ昔の女性研究者はこれくらいできる人でないと生き残れなかったんでしょうねえ・・・今の時代に産まれてよかった・・・。

 

この前読んだ『複雑系を科学する』『<あいまいさ>を科学する』では、米沢先生がどんな研究をなさっていたのか、詳しいことが触れられておらず残念、と感想に書いたが、本書では米沢先生ご自身の研究についても紹介されていて、そういう意味でも満足でした。「コヒーレント・ポテンシャル近似(CPA)」の理論確立、というのが米沢先生の大きな業績の一つらしい。まあ案の定、難しくて結局よくわかってないんですけどね。

 

修士一年のときに結婚なさってずっと連れ添った旦那さまとは歳をとってもラブラブで、旦那さまが亡くなるときのシーンは感動の一言。才能があってよき伴侶と家族にも恵まれて、って、誰もが羨む素晴らしい人生なのだが、多分米沢先生が一番恵まれていたのは、自分自身で運を掴み取る強さなのだろうなあ、と、本書を読んで思ったのだった。

 

いやはや、米沢先生、ほんとにすごい人でした(語彙力)。お腹いっぱい。すごい人の伝記ってやっぱり面白いですよね。 以前読んだこの本も面白かったなー。

 

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