『「役に立たない」科学が役に立つ』を読んだ

夏の間に生協書籍部で買っていた本。確かツイッターでも少し話題になっていたんだよな。

 

 

プリンストン高等研究所(Institute for Advanced Study)の現所長ロベルト・ダイクラーフと、初代所長のエイブラハム・フレクスナーの二人が、基礎科学の重要性について語ったエッセイ。両方とも主旨は同じで、「役に立たない」と当初は思われていた基礎科学研究が、実際にはこーんなに世の中の役に立ちましたよ、という例を示しながら基礎科学の重要性を説いている。

 

ただ、初代所長であるフレクスナーが、そうは言っても有用であることだけが重要なのではない、「精神と知性の自由こそ、圧倒的に重要」「そのような活動は、自らを磨き向上しようとする人の魂に満足をもたらすというだけで、十分に正当化される」「幾世代もの人間の魂を開放してきた大学や研究機関は、卒業生のだれそれが人間の知識に役立つ貢献をしていなくても、十分に正当化されるべきなのだ」(p90-92)と強く主張しているのに対し、現所長のダイクラーフの主張が、役に立たないと言っても長い目で見れば役に立つかもしれないしわからないよねーくらいにとどまっているあたり、今の世の中においては「役に立つ」ことがすごく大きな圧力になっているんだなと改めて考えさせられた。まあもちろん、こういう本を研究者が出さねばならないこと自体がその圧力の存在を示しているんだけれど。