『科学哲学へのいざない』を読んだ

近所の書店でたまたま見かけて、「あれ?あの(東大教養学部にいらした)佐藤直樹先生?同名の別人?」と手に取ったら「あの」佐藤直樹先生だった。

 

科学哲学へのいざない

科学哲学へのいざない

  • 作者:佐藤直樹
  • 発売日: 2020/07/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

ちょうど準備していた後期の講義とも関係があるテーマだったので早速読み始めたのだが、科学哲学者が書いた科学哲学の入門書と異なり、これまで科学者(生物学者)として活躍なさってきた佐藤先生が、その立場から科学哲学を実際の科学に引き寄せて議論しているのがとても新鮮だったし、共感できるところが多々あった。確かに科学哲学の入門書を読んでいると、科学哲学って実際の科学からはかなり乖離しているとの印象を受けることが多いのだが、これまでは、科学哲学は科学を外から見て研究対象とする学問なので、科学を内側から見ている我々と視点や考え方が違っても仕方ないのでは、と考えていたんですよね。以前このブログにも書いた『科学を語るとはどういうことか』では科学者と科学哲学者の議論が最後まで平行線をたどっているんだけれど、この本を読んだときなんか完全に科学哲学者の伊勢田先生に共感・同情していたような次第で。

 

norikoinada.hatenadiary.jp

 

でも『科学哲学へのいざない』を読んで完全に考えが変わったなあ。本書の最後で議論されているように、科学哲学が実際の科学に歩み寄ってさらに議論を深めることによって、実際の科学の倫理的基盤が作られる、ということは確かにあるんじゃないかなあ。そしてそのためには、科学哲学者側だけに歩み寄りを期待するのではなく、科学者側も科学哲学を学んでお互いに協力していく必要があるんだよな。私ももっと勉強しないといけないな・・・。

 

ところでこの本、佐藤直樹先生が2019年に慶應義塾大学で担当なさった「哲学II」の講義を下敷きとして書かれた本だそうで、名前は『科学哲学へのいざない』で入門書風なのだが、いわゆる科学哲学の入門書に書かれているような科学哲学の基本用語や基本的な考え方についての説明は省かれていたりして、科学哲学の一冊目として学生さんにおすすめするのはちょっときついかなと思った(例えば佐藤先生が実際の科学の推論法として最も重要だと書かれている「アブダクション」について、本書中で明確な定義がなされていないとか)。「哲学II」の講義は、サミール・オカーシャの『科学哲学』をベースとして、それに佐藤先生がご自分の考えを資料として大幅追加する形で行われたそうなので、オカーシャの本を読んだあとに読むのがいいのかな。

 

科学哲学 (〈1冊でわかる〉シリーズ)

科学哲学 (〈1冊でわかる〉シリーズ)

 

 

未読だったので注文しました。

 

個人的には第9章で某有名科学ジャーナリストの本を徹底的に批判しているところ、毒舌っぷりが佐藤先生らしいなーということと、そのジャーナリストが書いたニセ科学入門書について私自身がかなり批判的な立場ということもあり、にやにやしながら読んでしまった。

 

これな。

 

norikoinada.hatenadiary.jp