『ロバート・フック』『ニュートンに消された男 ロバート・フック』を読んだ

前回から随分間が空いてしまった・・・。やっとちょっと余裕が出てきたので更新。

 

確かまだ7月中だったけれど、ロバート・フックに関する本を立て続けに二冊読んだ。

 

ロバート・フック

ロバート・フック

 

 

ニュートンに消された男 ロバート・フック (角川ソフィア文庫)

ニュートンに消された男 ロバート・フック (角川ソフィア文庫)

 

 

一冊目は、昨年梅田のジュンク堂をうろうろしていて偶然見つけて購入。二冊目も、今年に入って天王寺の本屋をうろうろしていたときに見つけ、ちょうど一冊目を読んでいる途中だったか読み終わった頃かで、これも読むしかないと思って買ったんだったかな。一冊目の『ロバート・フック』は初版1999年3月1日、二冊目の『ニュートンに消された男』は、文庫本が出たのは昨年12月だけれど、オリジナルの単行本が出たのは1996年らしいから、割と似たような時期に出版されていたのね。

 

この二冊の主人公のロバート・フックは、17世紀後半のイギリスの科学者で、バネについての「フックの法則」で知られており、また「Cell(細胞)」の発見者・名付け親でもある。物理と生物というかなり異なる分野で名前を残していることからもその天才は明らかなのだが、なぜか知名度はあまり高くない。肖像画が残っていないこともあり、同時代人のみんな大好きニュートンと比べると明らかに影が薄い。なぜそれほどまでにロバート・フックの知名度、評価は低いのか?そしてロバート・フックとはどんな人物だったのか?ということに迫ったのがこの二冊。

 

二冊とも、立ち位置としては同じくフック擁護で、フックがいかに優れた科学者であったか、また交友関係も広く周囲に信頼される魅力的な人物であったかを、資料をもとに解説している。「なぜそれほどにロバート・フックの知名度・評価は低いのか?」という問に対する答えは両者とも「ニュートンが故意にフックの功績を抹消しようとしたから」。1635年生まれのフックは、1642年生まれのニュートンが科学界に現れたときにはすでに王立協会のメンバーとしてイギリス科学界の中心にいた。フックは、実験科学の立場から、理論科学を基盤とするニュートンの学説のいくつかを厳しく批判し、それがもとで二人は互いに反目し合う関係となる。フックがその死後、しばらく世の中から忘れ去られていたのは、フックの死後に権力を持ったニュートンが、フックの業績を積極的に排除したためではないか、というのが二冊の結論だ。

 

また、リチャード・ウォラーがフックの死後に執筆し出版したフックの伝記には、フックは「ただただ卑しく」「憂鬱症で、疑い深く、妬み深い」(『ニュートンに消された男』p134)という散々な書き方がされていて、これまではそれが一般的な「フック像」として認識されていたらしいのだけれど、この二冊はその人物像に対しても反対の立場を取っている。つまり、ウォラーの伝記はフックに対してマイナス感情を抱いていたニュートンの影響を強く受けたもので、たしかに晩年、病気を抱え、親類にも先立たれたフックには気難しい面もあったかもしれないけれど、人生の大半においてはフックは広い交友関係を持ち、皆に信頼される魅力的な人物であった、と。

 

かくいう私も、この本を手にとったのはニュートンへの興味からなんですよね。以前にも書いたように「アイザック・ニュートンがなぜ後年錬金術にのめり込んだのか」ということについて興味を持っていて、その疑問について自分なりの答えを得るために、その時代の社会、科学界の空気みたいなのものをもっと知りたいと思っている。一冊目の『ロバート・フック』も、帯の背表紙部分に「ニュートンの影になった男」というフレーズが書かれていたから手に取ったんだと思う。フックについては、まさに「フックの法則、細胞の名付け親」、それに加えるとしても「『ミクログラフィア』の著者」以上の知識はなかったんだが、この二冊を読んでまんまと「フックすげえ」となった。

 

一冊目の作者についてはどういう職業の人なのか、全く説明がないのだけれど、いかにも学術論文的な、「資料から読み取れる事実を淡々と記載していく」感じの文章で、エンターテインメント性は薄い。訳もかなり「直訳」感があるので、途中は結構読み飛ばしてしまった・・・。引用文献や索引がしっかりしているので、二次資料としてはとても使えそう。

 

一方二冊目は、科学史研究者によるロバート・フック評伝で、大佛次郎賞を受賞しただけあって読み物としてとてもおもしろかった。フック自身の業績や、ニュートンに対するフックの批判の妥当性についても、もともと物理学専攻の下地を生かして踏み込んで検証しているし、フックの死後その業績がしばらく忘れ去られていたことについては、「王立協会移転の際に、フックの肖像画やフックが作った実験装置など、フックにまつわるものをニュートンが廃棄したのではないか?」と、かなりセンセーショナルな憶測をしている。まあニュートンの性格の悪さは有名だし、さもありなんとは思っちゃいますよね・・・。もちろんニュートンの意地の悪さだけではなく、ニュートンが基盤を置いていた理論科学に対して、フックが依って立っていた実験科学は軽視される傾向にあるということもちゃんと議論していて説得力がある。文庫サイズで読みやすいのもよかった。