『ドリトル先生航海記』を読んだ

本屋で見つけて、「新訳出たんだ」とつい買ってしまった。

 

ドリトル先生航海記 (新潮文庫)

ドリトル先生航海記 (新潮文庫)

 

 

で、買って読み終わってから、新訳版の訳者が生物学者福岡伸一氏であることに気づいた。彼の本は今までに二冊ほど読んだけど、あの村上春樹かぶれの文章ばかりが気になって、内容は全然覚えていないんだな・・・。この本も、訳者が福岡氏であると気づいていたら買わなかったかもしれない。気づかなくてよかった。なぜならこの本、めちゃくちゃ良くて、ドリトル先生の面白さを再認識できたから。

 

この前実家に帰ったときに本棚を確認したところ、我が家にあったのは昔の岩波版(つまり井伏鱒二訳)の『ドリトル先生アフリカゆき』と『ドリトル先生航海記』の二冊で、内容はあまり覚えていないものの、小学校のときに読んだ記憶がある。内容を覚えていないのは、当時の私がそれほど『ドリトル先生』にのめり込めなかったから、繰り返し読まなかったからだろう。だっておそらく同時期に読んだ『メアリー・ポピンズ』シリーズはそれぞれ何回も読み返していろんなエピソードも覚えているもの。

 

で、子供のときにあまり一所懸命読まなかったという後悔もあってこの新訳版を手にとったわけなんだけど、この本を読んで「ドリトル先生ってこんなに面白かったんだ?」とびっくりした。私は子供のときは生物に全然興味がなかったから、単に嗜好が変わったせいもあるのかもしれないけど、新訳版がすごく魅力的だというのも大きな理由だと思う。福岡氏のあとがきにもあるように、新訳版ではドリトル先生の口調が大きく変わっている。井伏鱒二ドリトル先生が「わしは・・・」とか「・・・だわい」と言った典型的おじいさん口調で話していたのに対し、新訳版のドリトル先生の一人称は「わたし」で、語尾もいたって普通。そしてそれが、誰にでも公平で誰とでも対等なドリトル先生の人となりをより強調していて、そしてより一層親しみが持ててとてもよい。だって「わし」って一人称、それだけでなんかちょっと偉そうで、あんまり仲良くなれなさそうだもんね。

 

そうやって改めて読んだドリトル先生は、博物学者として秀でているのみならず、運動能力にも優れていて、これまたびっくりした。小太りっていうのは覚えていて、てっきり運動神経は鈍いのかなと思っていたのだが、牛の角をつかんで逆立ちするという曲芸は見せるは、蛮族との戦いでは伝説に残るほどの勇猛果敢な戦いぶりを見せるはでまさに超人。以前、「映画版のドリトル先生ロバート・ダウニー・Jrが演じる」というニュースを聞いたときは違和感しか覚えなかったのだが、今回この本を読み直して心底納得した。このドリトル先生の活躍っぷりは確かにロバート・ダウニー・Jrだわ・・・。

 

www.cinematoday.jp

 

内容はとても面白かったのだが、最後、ドリトル先生一行がイギリスに帰るときの話は違う意味でびっくりしてしまった。いやこれ絶対死ぬでしょ。ドリトル先生執筆当時って1920年代くらいなんだけど、その頃まだ「空気」の概念ってなかったのかな・・・?いやそんなことないよね・・・。ちょっと空気の発見の歴史をおさらいしなくては・・・。この本でも読もうかな。

 

空気の発見 (角川ソフィア文庫)

空気の発見 (角川ソフィア文庫)

 

 

福岡版『ドリトル先生』、今後の定番となるべき素晴らしい訳でした。ぜひ続けてシリーズの他の本も訳してください!