『科学技術をよく考える』を読んだ

昨年生協で見かけて買ったのかな?途中まで読んで放置していたのだが、最近やっと読み終えた。

 

 

本の副題になっている「クリティカルシンキング」 は、科学哲学の研究分野の一つで、本書では「他人の主張を鵜呑みにすることなく、吟味し評価するための方法論」と定義されている(「はじめに」piii)。いろんな科学技術についての議論例を見ながら、CTの手法を学ぼう、というのがこの本の主旨。

 

科学技術に関する10のトピックについて擁護派と反対派の議論例が紹介されているのだけれど、その議論がまずとても興味深かった。例えばユニット3の「喫煙を認めるか否か」。まあ喫煙なんて百害あって一利なしで、喫煙によってさまざまな疾患にかかる確率が大きく上昇することは統計的にも明確に示されているわけだし、擁護派に説得力のある議論なんてできるわけないと思うじゃないですか?でも本書では、まず「喫煙は健康に害をもたらす」と結論づけているデータの取得方法、解析方法の不正確さをまず議論。そして「責任能力のある人については他人に危害を加えない限りは基本的に何をするのも本人の自由」という「自由主義」が日本社会の基本であると確認したのち、同様に害があることが指摘されているが喫煙よりも社会的に受け入れられている(と見られる)アルコール摂取と比較することにより、「喫煙者バッシングは他人の自由の不当な侵害」と主張して、一読、かなりの説得力を持たせている。まあこの議論に説得力を覚えてしまうのは多分私のナイーブさの現れなんだろうけれど、でもトピックがなんであれこういう議論ができるんだなと気付いて、それで、科学倫理に関する担当講義でニセ科学擁護派vs反対派のディベートをしてみようかなと思ったんだよな。

 

とりあげられている10の科学技術は、血液型占いのように一般にニセ科学とみなされているものから、遺伝子組み換えや地震予知のようなトランスサイエンスまで幅広い。それぞれのトピックについてまず概要が説明されていて、そこを読むだけでも結構勉強になる。それに続く擁護派vs反対派の議論については、「どちらが正解か」という答えはなくて、どちらの議論がより説得力があるか、また説得力がないとしたらそれはなぜかというディスカッションがまず促され、でそのあと議論の妥当さを評価するための考え方、すなわちCTのスキルが紹介されるという構成。ここらへんは一通り読んだだけでちゃんと自分で考えていないので、再度、というか、何度か読む必要があるな・・・。

 

大学などの授業のテキストとしての利用も想定されていて、その場合にはこういう使い方ができますよと「はじめに」には書いてあるのだけれど、具体的な利用法が私にはちょっとイメージできなかった・・・。ので、自分の講義では、まず本書のいずれかのトピックの記事を議論例として学生さんに読んでもらって、あとはここで紹介されているCTの考え方をいくつか紹介して、じゃあ実際に擁護派vs反対派で議論してみましょうという流れにしようと考えている。本書を何度か読んでみたら、また他の活用法も見えてくるかもしれないな。