『科学哲学者 柏木達彦の哲学革命講義』を読んだ

京大(とははっきり書いていないが)で哲学を教える50代半ばの柏木教授が、学生や同僚との対話の中で哲学を紐解いていく「柏木達彦」のシリーズ第三作。この文庫本自体はもう絶版になっていて、第一作の『柏木達彦の多忙な夏』は最初Kindleで購入して読んだのだが、それがとても面白かった上、これはぱらぱらめくれる紙の本で持っておいたほうがいいやつや・・・と思い、中古で全三冊揃えた。

 

科学哲学者 柏木達彦の哲学革命講義 (角川ソフィア文庫)

科学哲学者 柏木達彦の哲学革命講義 (角川ソフィア文庫)

 

 

本作の第一章では学部1年生への講義の中で「原子論」が語られ、第二章・第三章ではこのシリーズの常連で物理専攻の学生、咲村紫苑との対話の中で「観念論的転回」「言語論的転回」についての説明がなされる。

 

三作通して読んで思ったのは、この柏木達彦シリーズのテーマ、というか、作者の富田先生の研究テーマは、「人智を超える絶対的真理の存在の有無」なのかなと。そして「そんな真理はない」というのが柏木の、ひいては富田先生の結論なのかなと。結局のところ人間は、自分の感覚や思考を通すことによってしか世界を認識し得ない。だから、私たち自身が自分の存在の外にある絶対的真理を見つけようとしてもそれは無理なことだし、そもそもそんなものは存在しない(存在を証明できない)。そしてそんな真理がなかったとしても、人は生きていかねばならない。絶対的真理という指標なしに進む人生は、暗闇の中を進むがごとくつらいものであるかのようにも思えるけれど、そのよすがになってくれるのが「哲学」なのだ、というのが、富田先生や富田先生と親交のあったローティの考えなのかな。少なくとも、私自身はそう理解しました。

 

シリーズを通しての概要はそう理解したものの、議論されている個々の思想については完全に理解できたとは言い難い。とてもわかりやすい文章でつるつる読めてしまうので、一応の理解は追いついたと思うのだが、じゃあ書いてあったことを説明してよと言われたら、すみませんできませんとなってしまうな・・・。

 

しかし得てして入門書を通しての理解というのはそういうものなのかもしれない。わかりやすい文章で読者の理解とさらなる興味を促すのが入門書の役目だとしたら、私にとってこの『柏木達彦』シリーズは哲学の入門書としての役割を十分に果たしてくれた。他にも哲学史など数冊を読み終え、そろそろ専門書を読んでもいい時期だなと思っている。そして専門書を読んで、よくわからなくなったらまた柏木達彦シリーズに戻ってこよう。

 

ところでこの角川ソフィア文庫の『柏木達彦』シリーズ、もともとはナカニシヤ出版から出ていた同シリーズの改訂文庫版なのだが、調べたらナカニシヤ出版からは全5作が出版されている。うち一作目の『多忙な夏』はそのままの名前で、『秋物語』が『プラトン講義』に、『冬物語』が『哲学革命講義』に改題・改訂されて文庫として出版されているのだが、ナカニシヤ出版から出ている同シリーズのうち『春麗ら』と『番外編』は文庫化されていないようなのでこれはこれで単行本を買わねばなるまい・・・。

 

そしても一つ「ところで」、柏木達彦シリーズにおいて柏木と並んで主要な登場人物、咲村紫苑は、富田先生が実際に教えた武仲能子さんという物理学の学生さんをモデルとして描かれている。ちょっとググってみたら、この武仲さんという方、理研の主任研究員として活躍なさっているらしい。さきがけも通っている・・・。その上、学部の頃から科学哲学に興味を持って富田研に通いつめ、自らローティに電子メールで質問したり、ローティが来日した際にはセミナーに参加して質問したり、富田先生と科学哲学関係の論文も出しているそうだ。す、すごい・・・。

 

「ローティに電子メール」「来日時にセミナーで質問」のところは富田先生のホームページに書かれていた。この頁、ググれば外部からアクセスできるんだけど、富田先生のホームページトップからはどうやって辿り着けばよいのかよくわからない。隠れページ?

 

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